Win Graffiti株式会社 代表取締役社長 島田 利枝氏
B2Bカンファレンスで大きな注目を集めたWin Graffiti株式会社の高級卵ブランド「箱庭たまご」
イベント当日は卵かけご飯の提供ブースに長蛇の列ができ、用意した卵のほとんどが来場者の手に渡りました。一見すると“高級卵”のブランドに見える同社ですが、その背景には、鶏たちの命と真剣に向き合う強い信念があります。なぜ1個300円の卵になるのか。なぜ平飼いにこだわるのか。そして、なぜ障害者雇用と養鶏を結びつけているのか――。島田利枝氏に、B2Bカンファレンス出展の感想とともに、その根底にある想いを伺いました。
B2Bカンファレンスで実感した“体験”の力
――B2Bカンファレンスに出展された感想を教えてください。
本当に想像以上の大盛況でした。あんなに卵かけご飯に人が並ぶとは思っていなかったので、かなり驚きましたね。持ち込んだ卵は1,000個ほどだったんですが、試食は売り切れ、お持ち帰り分もほとんどお配りできました。
イベントでオフライン提供をするのは初めてだったので、最初は私1人で行くつもりだったんです。でも「誰か一緒にいた方がいいかもしれない」と思って同行してもらったら、結果的に大正解でした。大行列ができていたので、あの状態で1人だったら、本当に回らなかったと思います。
来場者の方からは「色が濃くてすごい」「美味しい」という声が聞こえてきました。ただ、あまりにも忙しくて、じっくりお話しする時間はなかったですね。
それでも、イベント当日はホームページへの流入が普段の倍くらいになっていたので、興味を持っていただけたのかなと感じました。
――印象に残っている反応はありましたか。
卵を持ち帰った方が、「家族へのお土産にするのが楽しみ」と話していたと聞いて、すごく嬉しかったです。卵って日常的な食材ですが、こうして“贈り物”として喜んでいただけるんだなと実感しました。
ただ、今回感じたのは、「商品の背景を伝える難しさ」です。会場では、とにかく卵を割って提供することに追われていて、「どういう想いで作っている卵なのか」をお伝えする時間がほとんどありませんでした。
だからこそ、もっと発信していかなければいけないなと改めて感じています。
「鶏が幸せでなければ、卵も健康なはずがない」
――ハコニワファームの卵づくりで大切にしていることを教えてください。
一番大きいのは、「600日だけは幸せであってほしい」という想いです。
商業的な養鶏では、鶏はだいたい600日ほどで役目を終えます。本来なら10年ほど生きられる動物なのに、卵を産まなくなると商業的には飼い続けられない。だからせめて、その生きている間だけでも、幸せに暮らしてほしいと思ったんです。
私たちも養鶏業界に入るまでは、普通にスーパーで卵を買って食べていました。でも実際に現場を見ると、狭いケージの中で一生を終える鶏たちがいる。地面を歩くこともなく、生まれてから死ぬまでケージの中で過ごす。その現実を知った時、「この卵を食べ続けていいのか」と考えるようになりました。
だから、うちは平飼いにしています。鶏舎内を自由に歩き回り、止まり木や砂浴び、巣箱のある環境で過ごせるようにしています。鶏たちができるだけ自然に近い形で暮らせることを大切にしているんです。
そして餌にも徹底的にこだわっています。実は、うちの餌は「日本一高いんじゃないか」と言われるくらい高価なんです。餌代だけで、2,000羽規模でも月100万円以上かかっています。
結果として卵1個300円になったわけですが、最初から「300円の卵を作ろう」と思っていたわけではありません。
「ここもこだわりたい」
「鶏にも幸せでいてほしい」
「安心して食べられるものにしたい」
そうやって一つひとつ積み重ねていった結果、この価格になりました。
養鶏と障害者雇用が結びついた理由
――障害者雇用と養鶏を結びつけた背景について教えてください。
養鶏の仕事は、とても地道です。毎朝卵を回収して、掃除をして、餌をあげる。その繰り返しです。
派手な仕事ではありませんが、毎日同じ作業を丁寧に続ける力が求められます。障がいのあるスタッフの中には、その力を大きな強みとして発揮する人たちがいました。
暑い日も寒い日も、同じ作業を誠実に続ける。その姿を見た時、「これは才能だ」と思ったんです。
もちろん、得意不得意はあります。でも、得意な部分だけを組み合わせると、ジグソーパズルのようにチームが完成していくんです。日々の養鶏作業の多くを、障がいのあるスタッフたちが担っています。
私は、「苦手なことを無理に伸ばす必要はない」と考えています。できない部分を責めるより、得意な部分を活かした方が、その人は生き生きと働ける。
実際、継続して働いている方たちは、生活リズムも整い、精神的にも安定していきました。「自分の役割がある」という実感が、人を変えていくんだと思います。
そして、私が目指してきたのは、「障がいのある人が作ったから買ってください」という商品ではありません。
障がいのあるスタッフたちと一緒に作った商品が、味や品質で一流品と肩を並べること。その姿を見せたかったんです。
箱庭たまごは、その挑戦の中で生まれた商品です。
――高級卵ブランドとして展開されている背景には、そうした想いがあるのですね。
そうです。
私は、障がい者雇用を前面に出して「応援してください」と言いたいわけではありません。
もちろん、背景を知っていただけることは嬉しいです。でも、商品として選ばれる以上、まずは「美味しい」と思っていただくことが大前提だと思っています。
「障がいのある人たちが作ったから買う」のではなく、「美味しいから買う」。その上で、背景を知った時に、「だからこの卵を応援したい」と思っていただけたら嬉しいです。
私たちが作りたかったのは、「福祉だから選ばれる商品」ではありません。
一流の売り場に並んでも恥ずかしくない、一流の商品です。
そのために、飼育環境にも、餌にも、衛生管理にも、パッケージにもこだわってきました。
箱庭たまごは、鶏の命と、働く人の力と、支えてくださる方々の想いが重なってできた卵です。
“命をいただく”という感覚を、もう一度
――島田さんが今後伝えていきたいことは何でしょうか。
私は、「知った上で選んでほしい」と思っています。
卵は日本人にとって、とても身近な食材です。だからこそ、その背景を知らないまま食べ続けている人が多い。
でも、鶏も一つの命です。呼べば寄ってくる子もいますし、こちらが思う以上に個性や学習する力があります。毎日接していると、一羽一羽に違いがあることもよく分かります。
だから私は、若い世代にこそ知ってほしいと思っています。
「毎日食べている卵は、どうやって作られているのか」を。
もちろん、すぐに世の中が変わるとは思っていません。でも、1人ひとりが「自分はどんな卵を選ぶのか」を考えるだけでも、未来は少しずつ変わっていくはずです。
平飼いで、できれば餌にもこだわっている卵を選んでほしい。そして、「命をいただいている」という感覚を、少しでも持っていただけたら嬉しいですね。
次の10年へ――人が育ち、役割を持てる場所に
――今後、ハコニワファームとして目指していることを教えてください。
これまでの10年は、「障がいのある人たちと一緒に、一流の商品を作る」ということを目指してきました。
そして今、ようやく少しずつ、その形が見えてきたと感じています。
でも、ここがゴールではありません。
これからの10年で目指したいのは、障がいのある人たちが、ただ働くだけではなく、現場を支え、後輩を育て、リーダーとして役割を持てる会社です。
たとえば養鶏場の現場で、障がいのあるスタッフがリーダーとなり、新しく入ってきた人に仕事を教える。支援される側だった人が、誰かを支える側にもなっていく。
そういう会社を作っていきたいと思っています。
人は、自分の役割があると強くなれます。
「あなたが必要です」と言われる場所があることは、人を幸せにする力がある。
Win Graffiti株式会社の理念は、
「真心の励ましで、人をしあわせにします」
です。